正社員として採用した若者を長時間労働や過酷な環境で使いつぶし、
退職のみならず心身の病に追い込むブラック企業。NPO法人代表の
今野晴貴さん(30)はベストセラー「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」
(文芸春秋)でその存在と実態を顕在化させ、政府の対策を後押しした。
ブラック企業の問題は若者だけではなく、社会を揺るがし、すべての人に
関わる問題だと説く。
■社会壊す本質
著書を通じ、違法で過酷な働き方を若者に強いるブラック企業は社会
問題であると提起したことが、昨年の私の仕事の主だったことでした。
若者から労働相談を受けるNPO法人「POSSE(ポッセ)」を立ち上げたのは
大学在学中の2006年。当時は正社員ではない非正規の仕事に就く若者が
増えていて、「勝手気まま」などと批判されるようになっていた。私は労働法を
勉強していたので、それは違うと思った。会社側が「非正規で採用する」と言って
非正規で雇われているにすぎないのに、なぜ若者が原因だとされるのか。
付き合いのあった労働組合の人もそうした実態への認識が薄く、危機感を
持ったのも大きかった。
12年の相談は約千件で、13年は2千件に迫るペースだった。厳しい労働環境
に置かれた正社員の問題が目に見えて増えてきたのは09年以降で、
「ブラック企業」という言葉が使われるようになったのは10年。それまで相談を
かなり受けていたので、これは正社員雇用の問題だ、とすぐにぴんときた。
ブラック企業というのは若者が職場で追い詰められてうつ病になっているとか、
いじめられて辞めさせられているという話です。働き続けることができない、
体を壊す、精神疾患にかかる。最大の問題は、結果的に心身を破壊するという
こと、人を使いつぶすことなのです。
その結果、得られるはずの税収が減り、医療費や社会保障費を増大させ、
若者の未来を奪うことで少子化にもつながる。そういう社会的損失、人間の体や
人生をないがしろにして成り立つ経済などあり得ない。問題の本質はそこにある。
◆ブラック企業 長時間労働やパワーハラスメントなどで過酷な労働を強い、
若者を精神疾患にしたり、退職に追い込んだりする企業。新入社員を大量採用
した上で選別し、パワハラを繰り返して多数を辞めさせることや、低賃金で
長時間労働をさせ、追い詰められた若者を使い捨てるのが特徴的なやり方。
就職難で採用市場が企業側の買い手市場となっていることが背景にある。